大入島の九州オルレコース(+ちょっと寄り道)を歩いてみた
「オルレ」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
「オルレ」は韓国・済州島から始まったもので、もともとは済州島の方言で「通りから家に通じる狭い路地」という意味。自然豊かな済州島で、トレッキングする人が徐々に増え、「オ ルレ」はトレッキングコースの総称として呼ばれるようになり、今では韓国トレッキングの中心的コースになっている。海岸や山などを五感で感じ、自分のペースでゆっくりとコースを楽しむところがその魅力だ。
九州オルレは、済州オルレの姉妹版。済州島と同じように九州には四季の美しい風景があり、トレッキングに適した海岸や山などを五感で感じ九州の魅力を再発見してもらいたい。 そのような思いで整備された。大分には豊後大野と竹田を歩く「奥豊後コース」と、佐伯市大入島を歩く「さいき・大入島コース」の2つのコースがある。
船に乗ることを少し億劫に思って普段なかなか行かなかったが、SNSなどでたまに紹介されている大入島の舟隠などの絶景を観てみたいこともあり、大入島を歩いてみることにした。
天気はあいにくの状態。暑い日が続いているので、歩きやすくなったと解釈しながら佐伯港に到着。佐伯港と大入島をつなぐ船は2つあり、ひとつは車も乗せられる「大入島 観光フェリー」、もうひとつは人だけが乗れる「マリンバス常栄丸」。今回は、行きは「大入島 観光フェリー」、帰りは「マリンバス常栄丸」を利用してみることにした。
船というから少し大変なのかなと思っていたが、ほんの数分の船旅。
潮風を全身で浴びる。
到着。
看板とパンフレットに目をやり、とりあえず歩く。
「オルレコース」のルートは中級~上級者向けのAルートと、中級者向けのBルートがあるが、天候が怪しかったのでBルートを中心に、効率よく自然の見どころを体感できるように少しカスタマイズ(ごめんなさい…)。
車がいない。人が少ない。そして自然がたくさん。
海沿いを歩いていると家族連れに遭遇。
旦那さんの実家が大入島で、お子さんを連れてちょこちょこ遊びに来ているのだとか。カニなどの生き物や変わった色の石を一生懸命探している。夢中で遊ぶ姿を写真に収めさせていただく。
続いて釣り人に遭遇。
ちょこちょことやって来ているんだとか。
早速寄り道をしたので、ルートに戻る。
歩く。
歩く、歩く。
目印や看板を頼りに山道を歩く。
少し雨が降ったあとだからどうかなとは思ったが、思っているよりも歩きやすく、島といえば海のイメージだが、森林浴感覚を味わえることの斬新さが楽しめた。
そして事件発生!
見どころを見て回り、案内どおりに進んだと思っていたのだが…、無駄話に花を咲かせ過ぎたのか、島だから何かあっても大丈夫だろうという少しの慢心があったのか40分歩いて、たどり着いたのは…、さっきの場所(笑) 山の中をぐるっと一周しただけ…。
なぜ? 人って、まさかの事態になるとやっぱり頭を抱えるんですね…。
少し心が折れつつも、コースの通りに歩けばよかったと後悔。
気を取り直して歩く。
島の中心部にあるカンガルー広場に到着。
なぜカンガルー? と、疑問に思ったが、「寝そべるカンガルー像(ブロンズ像)」は、オーストラリア、グラッドストン市との友好の証らしい。
この季節は草が伸びやすいのか、茂みに潜むカンガルーを発見した気分。
色々とお話が聞けるかもしれないので、隣接する大入島食彩館へ。
オルレコースはもちろん、大入島は自然とそれを取り巻く見どころの塊。
急な訪問にも関わらず、「大入島の紹介ができるなら」と、食彩館館長の増永さんは快く応対してくれた。
増永さんはこの島出身で、島の人はみんな知り合い。
若い頃に島を離れて働いて、あんなに活気があった島がだんだんと活気を無くしていく様を見て、自分にできることをしたいと帰ってきたとのこと。
オルレコースとはまた少し外れる部分もあるが、
・舟隠
・神の井
・日向泊浦
は、地元でもおすすめの見どころだからとおすすめされて、行ってみることに。
■舟隠
防波堤で外海と仕切られた入江。
「奥の細道」と呼ばれる防波堤は歩くことができ、潮の満ち具合によっては、海の中を歩いているような錯覚を覚えるのだとか。舟隠の周りをぐるっと歩くのはおすすめのお散歩コース。自然と先人の知恵が融合した景色が味わえる。
■神の井
オルレコースから少し外れるが、海から数メートルしか離れていないのに真水が湧いて出る、初代天皇・神武天皇の伝説が語り継がれている神の井戸。
■日向泊浦
万葉歌碑、人形碑を見渡せる入江。湾曲したちょっとしたスペースだけど、最高の景色。また晴れた日に出直したい。
道中、沖縄出身で日本中を旅しているという女性と出会い、ちょっと一緒に移動しながら記念写真。話を聞くと、自然の見どころが多く、今日で3日目なんだとか。
大入島食彩館へ戻り、食事を終えた後、遊びに来た人たちに話しかける。
この日はあいにくの天気だったが、自然を満喫しに来る人たちが多く見られた。
小さいと思っていた島には自然が作り上げた見どころが盛りだくさん。旅する女性が長期滞在しているように、簡単には見て回れないほど。今度はぐるっと一周しに来よう。
帰りのマリンバスに乗る。
バスが停留するように港に立ち寄りながら佐伯港に帰るその雰囲気は、のどかで楽しい。
船というよりは地域の人にはその名の通りバスの役割で、違うのはモーター音と外を舞い散る水しぶき。橋がかかっていないからこそ、ちょっとだけ不便だからこそ、島の自然が守られた部分もあると思う。
後日、再び大入島にお邪魔して、仕掛け人たちに会ってきた。
大入島オルレセンター長・ガイドの小川さんと
ガイドの吉田さん。
毎年済州島で行われるオルレの会議にも参加する小川さんは、「最近は国内外からオルレ目当てに多くの観光客が来てくれる」と、近々の予定を教えてくれた。関西から、関東から、韓国から…、大きな団体客も来ていて大人気のようだ。
人気の秘密はルートが小さな島だからなのだとか。ルートの出発地点とゴール地点が違う場所になると、来た道を戻る、ゴール地点から公共交通機関に乗るなどしなくてはならないが、島をぐるっと歩けばずっと違う景色を楽しみながらスタート地点に戻ることができる。
来てくれた観光客を喜ばせようと、やまももを使ったジャムや、ウバメガシで作った炭など、食彩館館長の増永さんたちと島の特産品の商品開発も行っている。「仕事で色んなスキルを身につけた人たちが力を合わせればなんでもできる。」と、島の人たち。
島の主要産業だった漁業も、その担い手が減り、人口の面ではずいぶんと寂しくなった。
島が元気だった時に、なんでもない自然が観光資源になると考えた人は少ないはず。
時代は変わり、オルレコース、自然遊び、商品開発などが盛り上がってきている。自然とともに生きる、新しい大入島の今後を楽しみに見ていきたい。