川辺で愉しむ奥日田の休日
九州一の大河・筑後川。その上流域に当たる大山川が流れる奥日田エリアは、釈迦岳など津江三山をはじめとする山々の裾野に広がる深い森と、清らかな流れが育んだ土地だ。名水と「日田杉」の産地として知られ、国道212号を走れば、杉林とエメラルドグリーンの川が織りなす美しい景色が続く。初めて訪れても、どこか懐かしい山里の風景に心が落ち着く。
エリアの玄関口となる大山町西大山には、2024年3月に奥日田観光案内所がオープンした。紺色の外観が目を引く建物と同じ敷地に「奥日田ローカルツーリズム」が入り、すぐ近くの大山川を舞台にしたアクティビティを提供している。水郷・日田といえば鵜飼いや屋形船といった市中心部の川遊びが有名だが、上流に足を延ばせば、また違った水辺の表情が待っている。


観光案内所のすぐ裏手の淵で、パドルスポーツを体験した。ライフジャケットを身に着け、幅広で安定感のある川用のSUPを浮かべる。インストラクターの河津聖駒さんと矢羽田拓也さんからサポートを受け、恐る恐る座ってパドルを漕ぎ出すと、まるで川に抱かれたような感覚に包まれた。流れに合わせてボードが進み、鳥の声やせせらぎが間近に響く。川面を漂いながら見上げる空はどこまでも高く、時間の流れがゆるやかにほどけていくようだった。


SUPの上で立ち上がるのはちょっと勇気が必要だが、「大山川は僕らのホームリバー」と言い、川を知り尽くす河津さんがそばにいてくれる安心感が背中を押す。流れが緩やかということもあり、無事にボードを操ることができた。


さらに上流域では、「奥日田ブルー」と呼ばれる津江川の澄んだ水にも出合えるそうだ。水遊びだけでなく、川の水量が十分あれば川下りも楽しめるという。大分、熊本県境にある下筌(しもうけ)ダム湖ではカナディアンカヌーやカヤック、SUPを使ったツーリングも体験できる。なかでも、錦秋を迎えた山肌を眺めながら静かな湖面を進む体験は格別だろう。想像するだけで胸が高鳴る。


水辺のアクティビティ体験の後に立ち寄りたいのが人気アニメ「進撃の巨人」ゆかりのスポットだ。作者・諫山創さんの古里である大山町には、主人公ら3人の銅像が立つ大山ダム、原画などを展示したミュージアムを併設する道の駅「水辺の郷おおやま」など、見所がたくさん。観光案内所で貸し出している電動アシスト付き自転車を使い、川風を受けながら巡れば旅情もひとしおだろう。
奥日田の魅力は水辺にとどまらない。ハイキングや登山、森林浴にキャンプと、四季折々で表情を変える自然が待っている。北部九州の真ん中にありながら、アクセスが少し不便な分だけ、まだ知られていない宝物がたくさん残されているのだろう。訪れてみて初めて分かる贅沢な時間。奥日田は、旅人の心を静かに解きほぐしてくれる場所だった。

【メモ】奥日田ローカルツーリズムのパドリング体験は90分4000円。SUP、パックラフト、レジャーカヤックのいずれかを選ぶ。下筌ダム湖でのツーリングは3時間程度。1人9000円で、2人以上から申し込みできる。奥日田観光案内所の電動アシスト自転車は1時間600円、1日レンタル(2000円)も可能。案内所は不定休。