風を楽しみ、自然と暮らしの風景に出合う旅~耶馬渓サイクリングツアー
大分県北部の山あいに位置する中津市耶馬渓町。観光振興や健康づくりの一環としてサイクリングを推進する大分県の中でも、特にサイクリングコースの整備が進んでいる地域だ。レンタサイクルの拠点もあり、初心者から楽しめる。

その魅力を体感しようと、「やばけいサイクリングツアーズ」を運営する松永皓史さんにガイドをしてもらった。今回のコースは、耶馬渓町宮園を出発し、「メイプル耶馬サイクリングロード」を走って観光名所・青の洞門(本耶馬渓町)をゴールとする約4キロ。「ほとんどが平坦な道で、とても走りやすいですよ」と紹介してくれた。

松永さんは耶馬渓町出身。長崎県内で会社員として働いた後、2018年冬に古里へ戻り、中津市の地域おこし協力隊員として3年間、サイクリングロードの活用や情報発信に取り組んできた。実は、サイクリングを始めたのは協力隊員になってから。現在のツアーは2022年春に始め、週末を中心に旅行者を案内している。海外からの参加も多いという。
「自転車は車よりゆっくりで、歩くより速い乗り物。風を受けながら、自然の音を聞いて、地域の普段の暮らしを感じられるのが、耶馬渓のサイクリングの魅力なんです」と松永さん。確かに、ペダルをこいで進んでいくと、緑豊かな景色だけでなく、農作業をするおじいちゃん、おばあちゃんの姿が見えた。道端で人とすれ違えば、「こんにちは」とあいさつを交わす。なるほど、「地に足の着いた生活の場」に入り込めるのが、自転車ならではの楽しさなのだと感じた。
レンタルしたスポーツバイクは想像よりも軽い。ペダルをひとこぎすると、スッと前へ進み、心地よい風を感じる。


山国川沿いのサイクリングロードの周辺には石橋など、歴史を感じるスポットが点在する。コース途中の「第二山国川鉄橋」にさしかかったころ、松永さんが「ここは昔、耶馬渓鉄道が走っていたんですよ」と教えてくれた。耶馬渓鉄道はかつて国鉄中津駅(現JR中津駅)と守実(もりざね)温泉駅(中津市山国町)を結んだ延長36・1キロの路線で、1975年の廃線まで多くの人の生活を支えた。その跡地がサイクリングロードとして生まれ変わったのだという。鉄橋の上を走っていると、時の流れを静かに感じた。

その後も澄んだ空気の中を、のんびりと進む。道の両脇にはススキが揺れ、所々でカキやクリも目にした。川のせせらぎを聞きながら走っていると、日常のストレスが抜けていくような感覚になる。
山々の景色は季節によって変わる。紅葉の時期はもちろん美しいが、松永さんは「桜が終わって新緑が芽吹く頃が個人的には一番好き」と言う。若葉のエネルギーに満ちた季節。少し汗をかきながら走るのが爽快という。


旧耶馬渓平田駅のベンチでひと休憩した後、しばらくペダルをこぐと青の洞門へ到着した。
松永さんに地元への思いを尋ねた。「自転車に限らず、地域を巡る仕事がもっと増えていけばいい。そうして地域を大切にする人が育ってくれたら。人口が減っても、それが地域を守る力になるはず」
耶馬渓の景色や歴史、そして人々の暮らしや熱い思いに触れられるツアーは、まさに豊かな時間を楽しむ旅だった。


【メモ】やばけいサイクリングツアーズは、数人までのグループを受け入れている。希望に応じ、4~5時間のツアーを提供している。3日前までに予約が必要。予約や料金などの問い合わせは、yabakei.cycling@gmail.com へ。