名水百選の水源地から始める新しい取り組み 玖珠町
自然保護と人の営みを語る上で必要不可欠なのは水・空気・土。
上質なそれらは田舎に住むと割と当たり前に近くにあるが、都会ではとても貴重なものに映るらしい。とはいえ、生活を支える仕事があってこそ、田舎暮らしができるため、よく自然と経済的な豊かさは両立しづらいと言われてきた。
しかし、近年は世の中のSDGsの流れに沿うように、田舎は田舎らしく田舎の良さを活かし、キャンプ場やアクティビティなどに代表されるような持続可能な要素を持った産業に目を向ける自治体や企業が目立つようになってきた。
ちょうどそんなことを考えていると一通の案内が…。
玖珠町観光協会が平成の名水百選に大分県で唯一選ばれた「下園妙見様湧水(しものそのみょうけんさまゆうすい)」を核としたインバウンドツアーを計画して、そのモニターツアーの参加者を募集しているのだとか。
その名も「玖珠町山浦地区の名水と食文化を堪能するガストロノミーツアー」。
ガストロノミー?
最近カタカナが多すぎてよくわからないが、調べると、ガストロノミーはフランス語で「美食学・美食術」という意味らしい。
その土地の気候や風土が生んだ食材、習慣、伝統、歴史などによって生まれた食を楽しみながら行う旅を「ガストロノミーツーリズム」と呼び、それが文化や地方経済の発信、持続可能な観光の実現などにも繋がるというから、水の豊かな玖珠町にとってピッタリな施策だなと思った。
連絡するとギリギリセーフ。取材がてらツアーに同行させてもらえることになった。
玖珠町三日月の滝キャンプ場集合。
行程はこんな感じ。
ちょっと盛りだくさん過ぎません?(笑)
当日の朝。
参加者の顔ぶれを見ると、インバウンドのモニターツアーということで、外国の方が多い。
地元の活性化のために真剣に取り組む、若手からベテランまでの玖珠町の有志が同行するため、ちょっとした大団体だ。
このツアーに懸ける玖珠町の本気度が伝わる。
片言の英語で話しかけてみるが日本語が返ってきたり、スペイン語圏の方で通じなかったり。でも、外国の方と田舎を旅することと、田舎×外国の方の組み合わせを眺める。それだけでも楽しい。
ここからは今回のツアーの流れをスルスルッと紹介。
車に乗って慈恩の滝へ。
水量の多い二段滝。ツアーのスタートだ。 ひと通り慈恩の滝を観光して、
次はこのツアーの根幹の下園妙見様湧水と近くの川を観光。
澄みきった水のいずる場所で、「妙見様名水御膳」なる昼食をいただく。
なんだこのセッティングは。
ちょっと素敵すぎる。この空間は、私たち色気のない男性2人での参加を少し後悔させるには十分で、多くの参加者の感動を呼んでいた。
画になる人たちを撮影させてもらう。
裏方さんたちも…。
団子汁に天ぷらに、煮つけに豆腐にハンバーグ…。湧水の恵みををいかした郷土料理多数、これでもかというくらいに出てきて、食べきれずお持ち帰りする人もちらほら。美味しすぎて色気より食い気の私はおかわりしましたが。
雰囲気はもちろん、美味しい水と地元の食材中心で作られたランチは味も量も大満足でした。
続いて椎茸狩り体験。
原木を組み合わせた光景をシンガポールとアメリカの女性が「何かのモニュメント?」「儀式?」と盛り上がっている。確かにこの光景は見たことがないだろう。
言われないと気付かなかったが、日本でずっと都会暮らしの人も見たことがないだろうなと想像する。水、空気、土に恵まれたこの土地は椎茸の一大産地。実際に近づいてみると少し神秘的な雰囲気もあり、ちょっと心が動く。
続いて、500年以上の歴史を誇るお寺「専徳寺」へ。
昔、お寺は気軽に寄れる相談所みたいな役割を果たしていたが、段々と役割が変わってきたようで、日本で暮らす私たちも法事くらいでしか行くことがなくなった。
水あるところに人は集まる。水豊かなこの土地で暮らした先人たちの雰囲気を感じつつ、お寺の見学をさせていただいた。
近くのコーヒー店できれいな水で作るコーヒーをいただき。
最後の目的地は
万年元気豆腐。
「豆腐のおいしさは水できまる」と言われるように、豆腐の90%は水でできている。
水源地で、しかも軟水というある意味特別な場所で作られるこの豆腐は、ほのかな甘みを持ち、遠方からのお客さんも多いのだそう。地域に雇用や元気を作ることを目的に豆腐づくりを行っているので、田舎ならではのSDGsなビジネスモデルができている。
ここで豆腐作り体験。
一泊二日。
この旅の宿はスタート地点の三日月の滝キャンプ場。
ちょっとくつろいで、夕食タイム。
夕食と朝食は、地元のフレンチ「Brasserie EST!」さんによる地元食材をふんだんに使ったお料理。お米におおいた和牛に野菜にジビエ。
地産地消の食材が多いので、体にも環境にもやさしく、とにかく美味しい。ちなみにシェフは、神官・農家・シェフの三刀流。すごい。
こんなツアーが正式に運用されたら都会暮らしの友人たちにもおすすめしたいと心から思った。
ツアーを終えて。
大量のものを消費する時代を過ぎ、自然という当たり前にあるものに価値を見出す時代に変わったのだなとしみじみ思った。
モニターツアーは若干詰め込み過ぎに感じたが、それだけ多くの魅力があり、それらを平たく伝えたいという情熱の表れなのだろう。
田舎と仕事。自然と産業。両立させることは簡単ではない。
物は買える。でも、自然はお金を掛けてもすぐには手に入らない。
田舎は田舎と割り切り、かけがえのない自然を武器に雇用や産業を作ろうという玖珠町の取り組みを、これからもひとりのファンとして応援したい。