1300年の祈りと伝統文化に触れる旅
 ザク、ザク、ザク…。参道の砂利を踏みしめながら歩を進めると、すっと心が落ち着いていく。
 ここは大分県の北部、宇佐市南宇佐にある宇佐神宮。全国4万余りに上る八幡社の総本宮だ。今年は三つある御殿のうち、八幡大神を祀った「一之御殿」の創建から1300年というメモリアルイヤーに当たる。八幡大神は、「武士の神様」「勝負運の神様」として知られている。

今回は宇佐市観光ガイドの金田博子さんが案内してくれた。鳥居をくぐると、約50万㎡あるという境内のスケールに驚く。手水舎で手と口を清め、散策を始めるとすぐに「神様と仏様 日本で最初に出会ったのは この場所でした」というコピーの看板が目に入った。


 実は、境内には明治時代まで千年以上にわたって「弥勒寺(みろくじ)」と呼ばれる寺院があった。金田さんは、神と仏が融合した日本独自の宗教観「神仏習合」の発祥の地としても宇佐神宮は有名だと教えてくれた。海外からの参拝者の中には、そうした歴史に触れ「ワオ!素晴らしいハーモニーだ!」と感嘆の声を上げる人もいるという。神と仏の一体化は、今も私たちの家に仏壇と神棚がどちらもあるなど、生活の中に息づいている。
 さて、社叢(しゃそう)の中にある階段を上っていくと、鮮やかな朱色の門が見えてきた。今春に改修を終えた西大門(さいだいもん)だ。そのまま本殿のある上宮へと進み、「二礼四拍手一礼」の作法に沿って参拝した。本殿前にある樹齢約800年(推定)の御神木・大クスノキは、木に触れると御利益があるといわれ、「EXILE」のUSAさんがアルバムのヒットを祈願してミリオンセラーになったエピソードでも知られる。幹に両手を添えて目を閉じると、大きなパワーをもらったような気がした。


続いて上宮の裏手、菱形池のほとりにある「御霊水」へ。三つの霊泉からなり、571年に初めて八幡大神が出現した聖地とされる。上宮とは異なり、ひっそりとした神秘的な空間だ。「神様を心で感じることができる場所です」と金田さん。

宇佐神宮では10月6日、天皇陛下の使者(勅使)を迎える10年に一度の重儀「臨時奉幣祭(勅祭)」があった。かつては紫式部の夫の藤原宣孝や、平清盛も勅使として名前が残っており、時の移ろいに思いをはせながら祈りを捧げたいと思った。
 参拝後は、車で15分ほどの宇佐市四日市へ。お目当ては、この地区に伝わる「四日市人形」の絵付け体験だ。
 四日市は本願寺四日市別院(西別院)と四日市別院(東別院)が隣接して建つ門前町。人形は親鸞聖人の法要「報恩講(お取り越し)」の縁起物として作られ、戦争で担い手がいなくなり途絶えていたが、16年ほど前に地域住民らが復活させた。現在は 「四日市伝統技能伝承クラブ」の人形部会が制作を続け、観光客らの体験も受け入れている。

この日は四日市伝統技能伝承クラブの渡辺会長の自宅で体験させてもらった。信楽の土粘土を型に入れて整え、乾燥させて素焼きしたものに、「顔彩」と呼ばれる絵の具で着色していく。
干支や招き猫のほか、宇佐神宮御鎮座1300年に合わせた新デザインの「女禰宜(にょねぎ)」や巫女なども選ぶことができる。今回は巫女を作ることにした。


クラブのメンバーから手ほどきを受け、まずは顔彩を水に溶かし、白い顔の部分から塗る。その後は装束や、目などの細かい部分を仕上げた。「ご自身の感性のまま描いてほしいです。私たちも勉強になる」と言われ、安心して筆を進めることができた。
絵付けは1時間半~2時間で終了。渡辺会長は「1つ1つ手作りだから、同じ巫女でも描く人や、その日の気分で顔が違う。人間味があるのが四日市人形の魅力ですね」と語ってくれた。
 自分の作品は持ち帰ることができる。顔をずっと見ていると、どんどん愛着が湧いてきた。
 古代からの祈りや伝統を体感できる宇佐市。その魅力を発信しようとする地元の人たちの「元気」も印象的だった。

【メモ】
 宇佐市観光ガイドは宇佐市観光協会(TEL0978-37-0202)へ1週間前までに予約が必要。料金など詳細は協会ホームページで。四日市人形の絵付け体験は「豊の国千年ロマン観光圏」のホームページや「じゃらんnet」などから申し込みができる。