登山しなくとも「くじゅう」を満喫
九州本土最高峰の中岳(1791メートル)をはじめ、久住山、大船山など1700メートル級の山々が東西約15キロにわたって連なる「くじゅう連山」。雄大な景観と豊かな自然で知られ、週末ともなると四季を通して多くの登山客が訪れる。山に登らなくとも、気軽に自然を楽しみたい人にお勧めなのが九州自然歩道だ。牧ノ戸峠から長者原までのルートを散策してみた。

標高1330メートルにある牧ノ戸峠は、星生山、久住山、黒岩山などへの登山口として知られる。駐車場からすぐの自然歩道入り口から小旅行は始まる。くじゅうの自然をしっかり楽しもうと、今回はNPO法人くじゅうネイチャーガイドクラブの藏田佳代さんに同行してもらった。

歩道は整備され、緩やかな下りで歩きやすい。森の中の小道は心地よく、季節ごとに多様な植物が姿を見せるそうだ。夏に白い花を咲かせるノリウツギはアジサイの仲間。春の芽吹きを告げるマンサクも、黄色の花を咲かせる準備をしていた。ミズナラの木はシイタケの原木であり、かつては炭焼きにも重宝された。足元にはたくさんのドングリが落ちていたが、根を張り、育つのはごくわずかという。



同じように散策するグループとすれ違うと、「シカがいたよ」と教えてくれた。「この辺りだと、春には小鳥たちのさえずりがたくさん聞けますよ」と藏田さん。他にもキツネや野ウサギ、アナグマなどもいるが、なかなか姿を見せないそうだ。

一帯は火山活動で生まれ、周辺には蒸気や硫黄が噴き出している場所もある。もちろん、温泉はあちこちで湧いている。遊歩道沿いにも黒岩火山の噴火で流れ出して固まった溶岩があった。長者原ビジターセンターまでの約3.5キロは、自然の豊かさとともに荒々しさを実感させる。
長者原では「阿蘇くじゅう国立公園」の自然や歴史、自然保護の取り組みを紹介するビジターセンターを見学後、すぐ近くのタデ原湿原を散策することにした。約38ヘクタールある湿原は周囲の山々からの地下水が湧き出し、形づくられた。2005年には坊ガツル湿原とともに、国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録された。

湿原の主要エリアは散策路が整備されているので子どもから高齢者まで周りやすい。秋はアケボノソウやヤマラッキョウの花が楽しめる。この日はヤマラッキョウの紫色の花を見ることができた。厳しい冬を越えるとサクラソウやハルリンドウが可憐な姿を見せてくれるそうだ。湿原では「九重の自然を守る会」の会員が1年を通して日曜、祝日などに自然観察会を実施している。四季折々に変化する湿原と高山植物をこんな身近に感じられるのも、毎年春の野焼きを含め、多くの人が保護活動に携わってくれているからこそだ。


阿蘇くじゅう国立公園の魅力は奥深い。山には山の、森には森の、湿原には湿原の楽しみ方がある。「時間をかければかけるほど、魅力を知ることができますよ」という藏田さんの話ももっともだ。四季を通して多くの人を引きつける理由が少しだけ分かったような気がした。
【メモ】九州自然歩道は九州7県を結んでいる。環境省によると、総延長は2932キロあり、大分県内では青の洞門~祖母山頂までコースがある。牧ノ戸峠と長者原の間の利用には九重町コミュニティバスなども利用できる(有料、冬季運休の便あり)。NPO法人くじゅうネイチャーガイドクラブは四季折々の魅力を紹介するトレッキングや登山などの各種ツアーを開催している。詳細はクラブホームページ(https://kuju-ngc.com/)より確認を。タデ原湿原自然観察会の問い合わせ長者原ビジターセンター(TEL0973-79-2154)。