峯入りの道で楽しむ国東半島トレッキング
神仏習合の文化が今も息づく国東半島。古来より、修行僧は10年に一度、150キロもの行程を数日かけて巡拝する「峯入り」という厳しい修行をしている。その道をトレッキングコースとして整えたのが「国東半島峯道ロングトレイル」だ。総延長は約135キロあり、コースは初心者から上級者まで楽しめるよう設定している。歩けば、自然と文化が融合した半島の魅力を全身で感じられる。

奈良時代、宇佐神宮の御祭神・八幡大神の化身とされる仁聞(にんもん)菩薩が、半島に28の寺院を開いたことが「六郷満山(ろくごうまんざん)」文化の始まりとされる。山岳信仰や修験道、八幡信仰や仏教が融け合い、神と仏が共にまつられる独特の信仰が育まれた。
今回歩いたのは、国東市内の6コースのうち「K-1」と呼ばれる人気ルート。夷耶馬(えびすやば)とも称される景勝地にある「霊仙寺、実相院、六所宮」を出発し、岩戸寺まで全長約11キロ・7時間ほどの行程だ。初めての山道だったこともあり、国東半島峯道トレイルクラブガイドの井上美智代さんと鹿島多美子さんに案内を頼んだ。
六郷満山の中で仁聞菩薩が718年、最初に建立したとされる千燈寺(せんとうじ=現在の旧千燈寺跡)。戦国時代に焼失した本堂跡と一枚岩を浮彫りした珍しい仁王像を眺めながら奥の院へ。「秋は紅葉、冬は凛とした空気、春は新緑がとてもきれいなんですよ」と鹿島さん。石段が続く光景はなんとも言えない哀愁を感じさせる。いにしえの文化の香りだけでなく、季節の移ろいを楽しめるのが魅力だ。



奥の院の横にある枕の岩屋は仁聞菩薩の入寂(亡くなった)場所と伝わり、周辺には千基ほどの五輪塔や国東塔がたたずむ。「形一つ一つに意味があります。地・水・火・風・空の世界観です」。井上さんの説明を聞きながら、多くの人が祈りを捧げた当時に思いをはせる。

近くの五辻(いつつじ)不動駐車場から10分ほど登ったところに、英国の彫刻家アントニー・ゴームリー氏の作品がたたずむ。2013年に設置された像は、風雨の中で風合いは変化し、周囲の岩場はもちろん、海や森とも調和しているよう。自然と現代アートの対話を思わせる。岩場からは周防灘(すおうなだ)と姫島を臨む絶景も楽しめた。

急な岩場を登ると、岩壁に寄り添うように建てられた「五辻不動尊」がある。「よくこんな場所に建てたものだ」と思わずにはいられない。不動明王は、昔から人々の暮らしを見守ってきた。建物は無人で、自由にお参りができる。他のルート上にも無人の本堂があるそうで、風雨や動物が入り込まないよう、参拝後の戸締まりは忘れずに。



この先、国指定重要文化財の国東塔や日本で最も古いとされる石造仁王像が知られる岩戸寺まで約2・3キロの道のりをゆっくりと進んだ。
静寂と木漏れ日、時に姿を見せる雄大な景色と、道ばたにさりげなくある石造りの野仏、文化財。修験者が歩いた祈りの道は「仏の里くにさき」が育んできた、1300年を超える信仰と自然の息遣いを感じさせてくれた。歩くほどに心が満たされる1日となった。
【メモ】各コースの距離は8.9~15.5キロ。岩場や急斜面が点在している。トレッキングに相応しい服装と靴・帽子・手袋などを着用し、雨具や防寒着、必要な飲料水・食料、懐中電灯、医薬品や携帯電話、携帯トイレなどの携行を。道に迷わないよう、GPSの位置情報で居場所が分かる「YAMAP(ヤマップ)」など登山用アプリのダウンロードも呼びかけている。歩いた後にスタート地点に戻る場合は、車2台で来る、送迎がある農家民泊を利用するなどを検討してほしい。公式マップは道の駅くにさき内の観光案内所で販売している(郵送可)。問い合わせは国東市観光協会(TEL0978-72-5173)。